自分の気持ちがわからない、うまく言えないあなたへ:毒親育ちが感情表現を練習するヒント
毒親の影響を受けて育った方の中には、自分の気持ちがよく分からなかったり、感じていることを言葉にするのが難しかったりする方がいらっしゃるかもしれません。感情を感じることに罪悪感を覚えたり、自分の気持ちを表現することで否定される経験から、感情を抑圧することが当たり前になってしまったりすることがあります。
自分の気持ちが分からず、うまく表現できないことは、「自分らしく生きる」上で困難を感じる一因となる場合があります。ここでは、毒親の影響による感情の抑圧について理解し、自分の感情と向き合い、少しずつ表現していくためのヒントと練習方法をご紹介します。
毒親の影響と感情の抑圧
毒親と言われるような養育者の元で育つと、子供は健全な感情の発達が阻害されることがあります。例えば、
- 子供の感情を否定する:「そんなことで泣くんじゃない」「大げさだ」
- 子供の感情を無視する:子供が苦しんでいても気づかない、あるいは気づかないふりをする
- 子供の感情を利用する:子供の不安や罪悪感を煽ってコントロールする
- 親自身の感情を子供に押し付ける:親の不機嫌の原因を子供のせいにする
このような環境では、子供は「自分の感情を感じたり表現したりすることは危険だ」「私の感情には価値がない」と学ぶことがあります。その結果、自分の感情を感じないようにしたり、感情を押し殺したりすることが生存戦略となります。大人になっても、この時のパターンが続き、自分の本当の気持ちが分からなくなったり、感情を表現しようとすると強い不安を感じたりすることがあるのです。
自分の気持ちが分からない、うまく言えないことの影響
自分の気持ちが分からない、あるいは表現できない状態が続くと、以下のような影響が出ることがあります。
- 人間関係での困難: 自分の本音が伝えられないため、相手との間に適切な関係性を築くのが難しくなることがあります。また、他人の感情に過敏になったり、逆に共感することが難しくなったりすることもあります。
- 自己理解の遅れ: 自分が何に喜び、何に悲しみ、何に怒りを感じるのかが分からないため、自分自身の価値観や本当に望むことが見えにくくなります。
- 心身の不調: 感情を抑圧し続けることは、知らず知らずのうちに大きなストレスとなります。原因不明の体調不良や、漠然とした不安感につながる場合があります。
- 自己肯定感の低下: 自分の内面を否定し続けることで、「自分には価値がない」という感覚が強まることがあります。
感情と向き合うための第一歩:気づくことから始める
自分の気持ちと向き合うことは、最初の一歩として「気づく」ことから始まります。長年抑圧してきた感情にいきなり触れるのは怖いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。まずは、小さな感情の動きに意識を向ける練習から始めてみましょう。
練習1:自分の体の感覚に意識を向ける
感情は、しばしば体の感覚として現れます。嬉しいときに胸が温かくなる、緊張するときにお腹がキューとなる、怒っているときに肩がこわばる、といったようにです。
- 試してみましょう: 一日の終わりに数分、静かな時間を取り、自分の体の感覚に意識を向けてみてください。「肩が張っているな」「お腹が少し重いな」「なんだか胸のあたりがそわそわするな」など、特定の感覚に気づいたら、それをただ観察します。その感覚に良い・悪いの判断を加えず、ただ「そこにある」と認識する練習です。
- 観察を深める: その体の感覚が、今日のどんな出来事や誰かとのやり取りに関連しているか、少しだけ考えてみましょう。すぐに分からなくても大丈夫です。この練習は、体の感覚を通じて自分の内側に起きていることに気づく手がかりとなります。
練習2:感情の言葉を知る
自分の感情に名前をつけることが難しい場合、どのような感情があるのかを知ることから始めましょう。感情を表す言葉のリストを参考にしてみるのも有効です。
- 試してみましょう: 感情のリスト(例: 嬉しい、悲しい、怒り、怖い、寂しい、安心、混乱、驚き、疲労など)を見て、今日の出来事を振り返りながら、どの言葉が今の自分の状態や特定の瞬間に近かったかを選んでみましょう。一つだけでなく、複数の感情が同時に存在することもあります。
- 小さな感情に焦点を当てる: 強烈な感情ではなく、「少しモヤモヤする」「なんとなく落ち着かない」「ちょっと嬉しい」といった、小さくて曖昧な感情に名前をつけようと試みるのも良い練習です。
感情を少しずつ表現する練習
自分の感情に気づけるようになったら、次はそれを安全な方法で表現する練習を始めます。最初から他人に伝えようとせず、自分自身に向けて表現することから始めましょう。
練習3:ジャーナリング(書くこと)
自分の気持ちや考えを紙に書き出すことは、感情を整理し、表現するための非常に有効な方法です。
- 試してみましょう: ノートとペンを用意し、タイマーを5〜10分にセットします。その時間内に頭に浮かんだこと、心で感じていることを、良い悪いを判断せず、文法や誤字脱字も気にせず、ひたすら書き出し続けます。「今、私は〇〇と感じている」「〜な出来事があって、少し△△な気持ちになった」など、感情に焦点を当てて書いてみるのも良いでしょう。
- 安全な場所にする: このジャーナルは誰にも見せない、自分だけの安全な場所です。正直な気持ちを安心して書き出せるようにしてください。書き終えたら、読み返しても良いですし、そのままにしておいても構いません。
練習4:信頼できる人に少しだけ話してみる
自分一人での練習に慣れてきたら、もし信頼できる人がいれば、ほんの少しだけ自分の気持ちを話してみることを検討します。
- 試してみましょう: 「今日、こんなことがあって、少しだけ〇〇な気持ちになったんだ」というように、小さな出来事とそれに伴う感情を、相手の反応を期待せず、ただ伝える練習です。
- 相手を選ぶ: この練習をする相手は、あなたの話を否定せず、ただ聞いてくれると思える人が適しています。最初は家族以外の友人やパートナーなど、比較的安心して話せる関係性の人を選ぶのが良いかもしれません。もし適切な相手が見つからない場合は、専門家(カウンセラーなど)に話を聞いてもらうことも選択肢の一つです。
回復への道のり
自分の感情と向き合い、表現できるようになることは、自己理解を深め、他者との健全な関係性を築き、自分らしい人生を歩むための大切なステップです。これは一朝一夕にできることではなく、時間がかかる根気のいる練習かもしれません。
しかし、少しずつでも自分の内側に起きていることに気づき、それを丁寧に扱っていくことで、あなたは自分自身の味方になることができます。過去の経験から感情を抑圧することが習慣になっているとしても、大人になった今、あなたは自分の感情に対して新しい選択をすることができます。
今日ご紹介した練習は、そのための小さな一歩です。無理のない範囲で、できることから試してみてください。自分自身の感情に寄り添うことは、自己肯定感を育むことにもつながります。あなたの内側にある声に耳を傾ける旅を、ここから始めてみましょう。